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お互いに自立した大人の恋愛物語
2017年渡辺淳一文学賞受賞の平野啓一郎の長編小説。
天才と称されるクラシック・ギタリストの蒔野(38)と、
ジャーナリストの洋子(40)の大人の恋愛物語です。
蒔野のマネージャー三谷(30)も物語のキーパーソン。
天才の苦悩
仕事へのプライド
愛する人を支えるということ
家族との関係
音楽の美しさ
物語は大人の恋愛ですが、上記のようなことも散りばめられています。
好きだけではどうにもならない
お互いに自立した大人だからこその葛藤や迷いに、読んでいて切なくなることも多かったです。
以下、印象に残った言葉を。
人は変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。
過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?
こういう境遇でも、人は、音楽を楽しむことが出来るのだった。それは、人間に備わった、何と美しい能力だろうか。そして、ギターという楽器の良さは、まさしく、この親密さだった。こんなに近くで、こんなに優しく歌うことが出来る。楽器自体が、自分の体温であたたまってゆく。しかしそこには、聴いている人間の温もりまで混ざり込んでいるような気がした。
通念的な懐疑から、そういう美しい瞬間の群は、渓流に棲む鮎のようなもので、ただ濁りなく澄みきった場所にだけ棲むことが出来、日常の下流へと流されてしまえば、悉く死に絶えてしまうのではと疑われた。
この著者の作品は初めて読んだのですが
文体は、少し硬い、論理的な印象でした。
全体的には切ない物語ですが、
この世界の美しさや無常さをしっかり捉えようとしているのかな、と文章や表現から感じました。
そんな折々に、優しい気持ちになった本でした。